その他創作
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最近、アンジェリークの様子がおかしい。
 
どこがどう、と問われれば、答えに困るのだけれど。
例えば、何気ない仕草や表情の中に、ふと以前は見つけられなかった、翳りのようなものが垣間見えるようになった。
 
恐らくそれは、いつも、いつでも。余程注意して彼女を見ていなければ気付かない程の、ささやかな変化で。
 
もしかしたら、彼女自身でさえも気づいていないかもしれない程の、小さな違和感。
 
けれど、他の誰が分からなくても、自分だけには分かるのだという自信が、ベルナールには、ある。
 
アンジェリークが幼い時から、その1番近くで、いつも見守ってきた。
彼女が悲しみに涙流すときは、その涙をそっと拭ってあげて。不安で眠れない夜は、一晩中手を繋いで、ともに眠った。
 
いつだって、小さなアンジェの笑顔を守るのは、自分に与えられた役目であった。
一生懸命、自分を頼って伸ばしてくる幼い手の持ち主が、愛しくて、大切で。あの頃のベルナールの世界の中心で。
 
…しかし、新聞記者になるために家を飛び出して、再び彼女に出会うまでの決して短くない時間の間に。
 
記憶の中の小さな女の子は、立派なレディになり、表情も随分と大人びて、まるで初めて会った少女のようで。ベルナール自身、戸惑ったりしたのも、確かだ。
 
けれど、それでも。
 
確信を持って言える。
 
最近の彼女は、どこか、おかしい。
 
きっと、それは。
ベルナールだけに分かる変化だ。
 
今も、昔も。
――その想いの形は少し違えど、変わらず、彼女を誰より愛しく、大切に思っている自分だからこそ、分かる「変化」なのだ…。
 
      
      ※      ※      ※
 
 
「ねえ、アンジェ。もし良かったら、今夜、僕と一緒に夜想祭に行かないかい?」
「え…ベルナール兄さんと2人で、ですか?」
 
取材と称してアンジェリークに会うために訪れた陽だまり邸。アンジェリークの入れてくれた紅茶を2人、テーブルを囲んで飲みながら、何気なさを装って切り出した、半分口実、半分真実の話題は、彼女にとっては予想外だったらしく。目を丸くして問いかけてくる。
 
「そう、2人で。…最近、いろいろなタナトス絡みの事件が立て続けで、ゆっくり骨休みする間もなかっただろう?だから、息抜きにどうかと思ってね」
 
大きな事件ではないものの、最近あちこちでタナトスの被害が出ている。
それを解決するために、各地を走り回っていたアンジェリークの疲労は、本人が思っている以上に蓄積しているはずだ。
 
「本当に…ベルナール兄さんは、昔も今も…私を甘やかしすぎです」
「駄目かな…?」
 
断られるかどうか、期待半分、不安半分でチラリ、と彼女の方をうかがうと、大人びた表情で、ふわりと微笑むその姿に、思わず胸が高鳴る。
 
「いいえ、嬉しいです。是非ご一緒させてください」
「そうか、良かった…」
 
思わず零れた本音を誤魔化そうと、軽く咳払いをすると、ティーカップに残っていた紅茶を、誤魔化すように一気に飲み干し、ソファから立ち上がる。
 
「え、えっと…僕は一旦編集部に戻らなければいけないから、また夜に迎えに来るよ」
「はい!楽しみにしてますね」
「…うん、僕も楽しみだよ。じゃあ、また後でね。アンジェ」
「はい!」
 
陽だまり邸の住人の名にふさわしく。春の陽だまりそのもののようなふわりとした笑顔に、胸がしめるけられる。
こんな何気ない瞬間にさえ、どうしようもなく囚われている自身を自覚しながらも、あまりにも彼女が眩しすぎて。ぎこちなく微笑み返すことしかできない。
 
「…ベルナール兄さん?」
 
今までなら、優しくその髪を撫でて、親愛のキスの一つでも贈るところだが、今のベルナールにその余裕はない。
…彼女は、もう小さな女の子ではないのだから。
 
 
       ※     ※     ※
 
 
 
更新日時:
2008/12/21
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Last updated: 2009/11/15